最終更新日(Update)'26.02.01

白魚火 令和8年2月号 抜粋

 
(通巻第846号)
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2月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句  荻 原 富 江
年惜しむ (作品) 檜林 弘一
砂丘の風 (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集 (巻頭1位〜10位のみ掲載)
白光集 (奥野 津矢子選) (巻頭句のみ掲載)
  安部 育子、市川 節子
白光秀句  奥野 津矢子
白魚火全国俳句大会(松山)参加記(諸家)
令和七年栃木白魚火 忘年俳句大会 天野 萌尖
群馬白魚火会 前橋臨江閣吟行記 菊池 まゆ
白魚火集(檜林弘一選) (巻頭句のみ掲載)
  山田 惠子、小嶋 都志子
白魚火秀句 檜林 弘一


季節の一句

(群馬)荻原 富江

雪の壁こすり出てゆく介護バス  大滝 久江
          (令和七年五月号 白光集より)
 新潟県は上越、中越、下越と長い地形も手伝って、日本海からの季節風にさいなまれ積雪の多い所として知られています。
 昨今、少子高齢化が進みデイサービス等にお世話になる方が増えて来ています。ことに悪天候などおかまいなしで雪の壁をこすりながらも送迎して下さる運転手さんの御苦労と、利用者の方々の感謝の気持が、寒い中にも心をほっこりさせて下さるそんな一句でした。
 春が待ち遠しいですね。

カレー屋に異国の給仕四温晴  藤原 益世
          (令和七年五月号 白光集より)
 昼時でもあろうか。ふと立ち寄った店に異国の方が甲斐がいしく働いていらした。たどたどしい会話だったかも知れないが、食欲をそそるカレーの匂と爽やかな店内の様子とが、四温晴の日差しとともに身も心も満たしてくれたに違いない。

やはらかに結ぶ風呂敷桜餅  田所 ハル
          (令和七年五月号 白光集より)
 もうすぐ四月。入学、進学、入社式と新たな一年が始まります。何か御祝ごとがあったのでしょう。桜餅をいためない様に風呂敷をやわらかく結んだと言う。作者の喜びと細やかな心づかいが垣間見られやさしい句になりました。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 穴おでん (出雲)安食 彰彦
スーパームーン横に寒星従へて
眼の前でホバリングする赤蜻蛉
またおでんかと言うてみたいよ声小さく
一口だけ食べてみようか熊の肉
熱燗や酔うて歌ふはあの軍歌
地震を告ぐアナウンサーはマスクして
シクラメン九十一歳誕生日
叩かるる蝮哀れと思ひつつ

 ステンド・グラス (浜松)村上 尚子
木の風呂に背中を預け冬に入る
庭石を猫と分け合ふ小春かな
にはとりの遠出してをり神の留守
きざはしの一歩が険し冬の草
覚えなき打身勤労感謝の日
まん中に古墳を据ゑて山眠る
図書館のステンド・グラス暮早し
冬蝶とゆく駅前の交差点

初時雨 (浜松)渥美 絹代
空揚げに伊予の酢橘を二三滴
まだ釣果なき子どんぐり拾ひ出す
鵙日和テラスの席を猫よぎる
鳥の声追へば木の実のひとつ落つ
神木の幹這ふ秋のかたつむり
ゆく秋や島の陰へと船の消え
十三夜肉のあぶらの鍋に浮き
濡れ縁の木目のあらは初時雨

 一途なる (唐津)小浜 史都女
秋風に褪せ街道の丸ポスト
椿の実弾けさうなるものばかり
ふり返ることの楽しき紅葉山
涸れまいと力だしきる大瀑布
冬紅葉眉間ちぢめて仁王立つ
をどり出しさうな枯木となりにけり
返り花一途といへば一途なる
裸木となりて青空近くなる

 葉貌 (宇都宮)中村 國司
三角に実を見てみたし実南天
碧天へ紅山茶花のにほひたつ
萎れつつ緋に日を纏ひ冬の菊
下野の国衙や富士の雪見えて
へしをれし葉貌水漬き蓮の骨
駅ひがしより駅にしへ月氷る
接吻のやうお地蔵に散る紅葉
につぽんは熊の騒ぎに憂国忌

 寝言 (北見)金田 野歩女
秋の空巨きな句碑に虚子の銘
鳥渡る群れの殿うねりたる
秋の雪緋の番傘を置く湯宿
冬はじめ胃を温むる白湯注ぎぬ
峠越え来しバスの屋根雪の嵩
主語の無き電話の相手雪催
柄の長き靴箆かかる冬館
湯たんぽや寝言云ふ子と云はぬ子と

 十二月 (東京)寺澤 朝子
着ぶくれていつしか父母の齢越ゆ
袴着のはかま付けやる子のすつくと
久々の外出落葉を踏みしめて
古書店の障子の奥の本の山
花舗出でて冬のうららを歩むなり
旅心地膝にみかんを剝くことも
紅葉散る垣根に添うて戻り道
ゆつたりと中川流れ十二月

 秋思ふと (旭川)平間 純一
瀬戸内の島影遠し秋黴雨
本丸の狭間をのぞきて秋思ふと
秋草や楯に家紋の下り藤
着陸機雪連山を横切りぬ
日をたつぷりと丸き山眠りけり
ちやんばらの枯虎杖の刀かな
落葉ふかぶかアイヌの眠る墓域かな
雪時雨鳶は低きに輪をかいて

 冬薔薇 (宇都宮)星田 一草
おうおうと新米の声炊きあがる
全くの自由がさびし十三夜
秋深しひとつ書き足す備忘録
公園に小さきリュック小春かな
子の歩みととととととと小春かな
沢庵石だきて去年の重さかな
笹鳴のつぶやくやうに遠ざかる
冬薔薇だれかを待つてゐるやうな

 枯蓮 (栃木)柴山 要作
山粧ふソーラーパネルてふ異物
残菊やひくひく光る蜂の尻
足元より冷え来る朝一都句碑
十月桜天に溶け入る花の数
犬も人も喜々と小春のドッグラン
声の限り檻の丹頂高鳴けり
波郷忌の砂町銀座昼の酒
枯蓮や老いをさらけて見ゆるもの

 風小僧 (群馬)篠原 庄治
寝床まで付いて来るかよ草虱
掌にしばし遊ばす雪ばんば
奥山に日がなかかりぬ時雨雲
人の声畑に残し冬日落つ
人幅の小径の残る枯野かな
隠れ里一戸一戸の冬菜畑
雪吊に雪待つほどの緩びかな
風小僧泣き泣き抜くる冬木立

 からたちの棘 (浜松)弓場 忠義
人形の襟元正し菊師去る
荒縄にくくる残菊匂ひけり
冬浅し海星もゐたり忘れ潮
冬ざるる浜に海星と流木と
からたちの棘にからまる冬の雨
葛湯吹く吉野の山を近くして
綿虫の湖の青さを透かし飛ぶ
けふからは冬蝶となる二頭かな

 喝采 (出雲)渡部 美知子
ひと風に喝采のごと散紅葉
冬の蝶監視カメラをすり抜けて
数匹のししやも残して御開きに
美容院まづ膝掛を掛けてより
三輪車銀杏落葉を蹴散らして
波音を神の声とも冬の浜
順々に潜つてみせて鴨三羽
冬枯の色を帯びたる湖水かな

 ひらひらと (出雲)三原 白鴉
枯蟷螂揺れて一歩を踏み出さず
山襞の影のきりりと霜の朝
くいと頸伸ばして鳰の潜りけり
鴨千羽発つて湖岸の空囃す
浮寝鳥木目のごとき湖の面
ひらひらとルアーの引ける冬の水
枯草に朝の湿りの匂ひけり
冬桜空の青さに触れて咲く

 咳をして (札幌)奥野 津矢子
旅の荷を片す枝豆食べながら
虫喰ひの穴のまんまる柿落葉
青空に近き本丸返り花
盲導犬勤労感謝の日の散歩
青頸のばさと羽搏く重さかな
雨脚の尖つてきたり冬の雷
着ぶくれて改札口の狭くなり
咳をして大事な夢を忘れけり

 付箋 (宇都宮)星 揚子
長き夜や付箋色分けしてみたり
犬小屋に犬ゐぬ家の木守柿
銀杏散るなかを背伸びの風見鶏
美術館を相傘で出づ翁の忌
校庭に声の膨るる小春かな
手に馴染むブックカバーや一葉忌
日時計の針ぼんやりと片時雨
枯蓮の動く音して風来たり

 短日 (浜松)阿部 芙美子
月仰ぐ恩師とよべる人のゐて
言ふほどの事もなき日々秋惜しむ
見栄を切る不動明王冬に入る
裏紙で作るメモ帳小六月
雪蛍旅の終りに近づきぬ
短日や朝昼晩と飲む薬
鯛焼の袋のしめり手に移る
口下手の熱燗に舌焦がしをり

 筆馴らし (浜松)佐藤 升子
玄関に犬が貌出す神の留守
初冬の丸を連ぬる筆馴らし
数へつつ登るきざはし冬ぬくし
どれほどの落葉かさなす心字池
凩のさらつてゆける波頭
短日のチューブの絵具しぼり切る
風さつと湖面を舐めて鴨の陣
炭をつぎふたことみこと言うて去る



鳥雲集

巻頭1位から10位のみ
渥美絹代選

 冬日和 (磐田)浅井 勝子
きしきしと古紙を括れば冬に入る
霜降り肉奢る勤労感謝の日
海光を引き寄せてゐる帰り花
ペンキ屋の刷毛の潑剌冬日和
ビル風を除け暖房のビルへ入る
封筒の糊代広し山眠る

 勤労感謝の日 (高松)後藤 政春
背伸びして届かぬ辺り柿熟るる
牛の目に沈む夕日や赤とんぼ
梵鐘の一打の余韻銀杏散る
島へ曳く長き航跡冬に入る
灯台の見ゆる畑に大根引く
妻の愚痴聞くや勤労感謝の日

 速達便 (呉)大隈 ひろみ
境内に響く心経秋の風
目に見えぬ雨をはじきて椿の実
色変へぬ松を残して家を去る
短日の速達便に足す切手
篠笛も遺品となりぬ冬銀河
新しき仏間の灯影白襖

 神の留守 (多久)大石 ひろ女
人の手を借りる暮しに石蕗咲けり
誰も来ぬ日の山茶花の白さかな
神の留守大きな月を拝しけり
銀杏落葉肥前有田の関所跡
生涯の残り豊かに寒薔薇
日輪の眩し過ぎたり返り花

 冬に入る (浜松)塩野 昌治
ほぞ継ぎのかつんと決まり冬に入る
甲冑の大き口開く神の留守
短日や鬼の泣き出すかくれんぼ
木枯一号岸離れゆく貨物船
初しぐれ島の真中にじやこを買ふ
二の酉へ淡き路地の灯抜けて行く

 小春 (牧之原)坂下 昇子
人声の去りて木の実の落ちにけり
近寄れば鯉も寄り来る小春かな
茶の花のふつくらと日の匂ふかな
傾ぐ日のやうやく届く帰り花
干大根掛くる木の股陽の斜め
鴨一羽沼の入り日を引きずりて

 冬雲 (群馬)鈴木 百合子
仏前に湯気くゆらする衣被
木の実落つ空の青きを深くして
まんなかに凹ある砥石冬隣
草庵につづく飛石石蕗の花
茶の花や遺墨の軸に朱の懸緒
波打てる玻璃戸冬雲離さざる

 十二月 (藤枝)横田 じゅんこ
紅葉狩もつとも橋の揺るる位置
静寂てふ音あり音楽堂の冬
閉むる栓開くる栓あり十二月
誰待つとなく卓袱台にあるみかん
八十を三つ越したる日記買ふ
白湯の香を楽しむ除夜となりにけり

 海賊の島 (浜松)林 浩世
霧迫る天守閣まで幾曲り
朝寒し旅にひく紅濃かりけり
海賊の島を眼下に秋惜しむ
立冬の青空ゆるみなかりけり
宿坊の蒲団のなべて薄つぺら
小雪や紺屋の隅に大福帳

 神渡 (島根)田口 耕
息を止め実印押せり実南天
試し書きに「隠岐」とゆつくり冬薔薇
一斉にざわつく烏神渡
さざ波のあとの潮の香冬うらら
花びらのごとくとどまる冬の蝶
山のごと泊つる艦艇島の冬



白光集
〔同人作品〕   巻頭句
奥野 津矢子選

 安部 育子(松江)
國引のくにの山河や冬に入る
里の空少し汚して落葉焚く
冬晴や威風堂々伯耆富士
きのふ見てけふも見にゆく大根かな
冬林檎ひとつ供へて佳き知らせ

 市川 節子(苫小牧)
冬紅葉鳥居の見ゆる水車橋
紅葉散る足湯に映る茜色
帰り花日差し集むる子規の句碑
でこぼこの畑の一角大根干す
ゴミ拾ふ園児勤労感謝の日



白光秀句
奥野 津矢子

冬晴や威風堂々伯耆富士 安部 育子(松江)

伯耆富士は鳥取県にある大山(だいせん)の異称。中国地方の最高峰で西側からの写真は富士山のように見える。
因みに島根県側から見たときの愛称が出雲富士と載っていた。富士の名が付けば「威風堂々」が大げさでは無くぴたりとはまる。季語の「冬晴」も天晴れだと思う。
 冬林檎ひとつ供へて佳き知らせ
どのような良い知らせがはいったのだろう。読み終えて喜びが静かで慎ましく感じるのはひとつの林檎にあるのだろうか。冬林檎は収穫が終わったものを長期間の需要を充たすために低温貯蔵庫などに保存して出荷される。作者は喜びを林檎に委ねているようだ。蜜のたっぷり入っている赤い「富士」を供えられたのでは、と想像出来る。

冬紅葉鳥居の見ゆる水車橋 市川 節子(苫小牧)

晩秋の美しい紅葉から冬になっても残っている紅葉に目が移る。雪と相俟っての美しさがある。作者は水車橋から鳥居を見てそして冬紅葉をみている。水車橋の名から水車が設置されているのかもしれない。取り合わせの句ではあるが鳥居も冬紅葉も見える描写に暫し時間を忘れる。
 ゴミ拾ふ園児勤労感謝の日 
十一月二十三日が勤労感謝の日で「勤労を尊び生産を祝い国民が互いに助け合う」という趣旨の祝日。改めて大事にしたい祝日だと思う。掲句は幼稚園の一つの行事かもしれないが園児がゴミを探して見つければ嬉しそうにゴミ袋へ、一つも拾えないと少し不満顔。そんな光景が目の前にある。ゴミの片仮名表記に違和感はない。

老衰てふ病名の付く神無月 佐藤 琴美(札幌)

病名が解らず長い間難病に苦しむ人もおられると思う。
掲句は「老衰」と言う病名が付いたと言う。それは歳のせいですよ、と言われているようで仕方がないと思いつつすっきりしない。これから少しずつどこか弱っていく、受け入れるしかないのか。季語の「神無月」が言い得て妙。

老人は入場無料冬うらら 山田 惠子(磐田)

何歳から老人なのだろう。辞書を引くと年寄り、年取った人と出ている。入場無料の場所は動物園、博物館等があり私も大いに利用させていただいている。後期高齢者は七十五歳以上が一般的、今後はどうなるのだろう。とりあえず無料は嬉しい。

新蕎麦やガイドブックになき老舗 牧野 敏信(犬山)

蕎麦屋を探すにはガイドブックは便利。だが作者が訪れた蕎麦屋はガイドブックに載っていない先祖代々続いて繁昌している老舗。美味しくて隠れ家的で静かな雰囲気も気に入った様子が句に現れている。

きつちりと畳まれてゐるアノラック 山田 眞二(浜松)

防寒、防風着のアノラックはノルウェーで考案され日本に昭和四年に入ってきたと解説に載っている。掲句に注目したのは「きつちりと畳まれてゐる」の措辞。きちんと畳むのは難しいので普段はハンガーに掛けられているのではないかと思う。作者は店で新調したのかもしれないが目の付け所が普通ではないと感じた句。

妣の歳をすとんと過ぎて日短し 三関ソノ江(北海道)

歳を「すとん」と過ぎるとは・・すとんを調べると落ちたり当たったり倒れたりする音、身軽におり立つさまを表す。
作者の年齢をあかして失礼かなとも思ったが九十七歳と記してある。亡くなった母の歳を越してもお元気で気持ちを身軽に淡々としている様子にうらやましく思う。「日短」もやがて「日永」になる。

冬の蠅物にとまれば叩かるる 鈴木 利久(浜松)

冬の蠅のこりわづかな日記帳 前川 幹子(浜松)

二句とも季語は「冬の蠅」。冬に生き残っている蠅で大方は弱っている。一句目は飛んでいればまだしも止まれば簡単に叩かれてしまう蠅をたんたんと一句一章で詠んでいる。
二句目は冬の蠅の残りの命と自分の日記帳のわずかな残りとをうまく取り合わせている。両句とも心に響いた。

冬ぬくし問診票に全てまる 永戸 淳子(松江)

初診の時は問診票を渡される。作者はすべての質問にまるをつけた。どのような質問だったのかは不明だが季語の「冬ぬくし」から良い○だったと思われる。

毛糸編むまだ見ぬ孫の五指浮かべ 高橋 宗潤(松江)

仁尾正文先生は「孫」の句は採らないと言い続けていました。そのせいか孫の句を見る事は少ないはず。
掲句はまだ生まれていない孫への期待と不安が手袋を編むという行為で落ち着かせている。「かわいい」一色の「孫俳句」とは違う何かが必要かと思わせてくれた句。
因みに仁尾先生が例外として採らされてしまったと書いておられた秀句が〝年賀状国籍違ふ孫一人〟 原あや子さんの句でした。


その他の感銘句

冬霧ににじむ灯や橋の街
釉薬の休めるはんど山眠る
初雪のたより仲代達矢逝く
暮早し街のネオンは湖に揺れ
宍道湖の波を枕に浮寝鳥
秋空や初めてのホールインワン
神の留守脱衣所でのる台秤
揚げたてのコロッケ勤労感謝の日
凩を入れて発車の始発駅
焙烙と十三里の旗焼藷屋
隣り合ふ寺と氏神石蕗の花
退官日厚き十年日記買ふ
日短や子に急かさるるボタン付け
キーボード買ふ凩はソのシャープ
くいと飲む大き錠剤冬に入る

小林さつき
江⻆トモ子
高田 茂子
釜屋 清子
持田 伸恵
齋藤 英子
宇於崎桂子
徳永 敏子
鈴木 竜川
五十嵐好夫
勝部アサ子
松永 敏秀
池本 則子
鈴木くろえ
古川美弥子



白魚火集
〔同人・会員作品〕   巻頭句
檜林弘一選

 磐田 山田 惠子
窓越しの風を見てゐる冬はじめ
帰り花子に諭さるる歩き方
人形と握手してゐる小春かな
家中に手摺十一月の雨
走り根の守る砦あと山眠る

 日野 小嶋 都志子
托鉢の僧に一礼神の留守
撓むほど色を増しゆく蜜柑かな
雪虫の先行く橋を渡りをり
井戸端に落葉の溜まる一葉忌
怪奇譚信じてしまふ夜半の雪



白魚火秀句
檜林弘一

窓越しの風を見てゐる冬はじめ 山田 惠子(磐田)

風は本来見えないものである。それを窓越しに見える木の揺れ、雲の流れ、あるいは光の翳りなどの変化に風の存在を感じ取られているのであろう。外界と作者との間にはガラス一枚の隔たりがある。この距離感が、冬はじめへのためらいや身構えと響き合う。季語「冬はじめ」は、冷えそのものよりも気配の季語と言える。寒さを言わず、さりげなく風の見え方に季節の変わり目を語らせるところに、写生の確かさがあり、一句のなかに適度な余韻を生んでいる。
 走り根の守る砦あと山眠る
この砦の興亡はわからないが、歴史の重みを感じさせる詠み口である。防御のためのこの構築物は、痕跡だけを残しており、今は人に代わって走り根が砦を守る役割を引き継ぐように存在するというのである。砦あと~山眠るの距離感が妙であり、下五に据えられた季語「山眠る」には、上五中七を支える存在感がある。

怪奇譚信じてしまふ夜半の雪 小嶋都志子(日野)

「怪奇譚」という語には古典的な重みがある。この句ではその重みが過不足なく働き、雪の夜の静けさとの取り合わせに適う。この言葉は現実と虚構のはざまをすでに感じさせるが、その「譚」を「信じてしまふ」としたところに、人の理性がふと緩む瞬間が捉えられている。夜半という時刻も相まって、日中なら笑い飛ばせる話が、なぜか真実味を帯びてくる。怪異の中味を叙さず、心情を一点で捉え、雪の夜という普遍的な場面に落とし込んだ一句。
 井戸端に落葉の溜まる一葉忌
一葉忌は、明治の文豪樋口一葉を悼む忌日であり、文学史的な重みと、若くして世を去った人生の翳りを併せ持つ忌日季語。ここで実景の「落葉」がいぶし銀の脇役として照応している点が巧みである。説明や感傷に流れず、井戸端という静かな場所に、静かな季語で一葉を悼む詠み口が清い。忌日季語に季語を重ねて季節感を増幅する詠み方に違和感はない。

茶の花をほろほろ零し里眠る 柴田まさ江(牧之原)

作者のお住まいの牧之原市の風物詩とも言える季題である。眼前の茶の花が零れる近景と里が眠る遠景という視線の移動が自然で、本格的な冬へと向かう季節の深まりを静かに告げている。この白く小さな花が、盛りを誇ることなく、ほろほろと零れるという擬態語が、特有のはかなさ、何にも頼らない自然体であることを感じさせる一句である。

柊の花匂ひたり控訴院 野田 美子(愛知)

控訴院とは、現在の高等裁判所を指している。語感の硬さもあるが司法の場は理性と制度、緊張と沈黙が支配する場所でもある。過去にはこの場所で、幾多の微妙な判決が言い渡されたことであろう。その無機質で冷たい印象の場に対して、「柊の花匂ひたり」という取り合わせが、えも言われぬ何かを感じさせる。柊の花は白く小さく、しかも香りが意外に強い花。目立たないが、近づくとふいに匂が立つ。真理と判決を扱う場所と柊の花の香の対比が、説明なしに際立ってくる。静かで硬質であるこの場所だが、しかしどこかに救いを感じさせるような一句。

白鳥来たちまち湖は目覚めけり 福本 國愛(鳥取)

冒頭の「白鳥来」が、はっきりとした季節の到来を告げている。静かな湖に、外からやって来る存在。その背景には、渡り鳥がはるかな距離を越えてやってきた時の流れを感じることができる。この句では、白鳥の優雅さよりも、眼前の場の変化に焦点を当てているところが新鮮である。「たちまち」がこの景の推進力。白鳥が来た、その瞬間に湖の様相が一変する。それまで眠っていた湖が、羽音、水の波紋、鳴き声等により、一気に活性化する様子が伝わってくる。動(白鳥)、静(湖)と、その転換(たちまちという言葉)が無駄なく構成されている。一瞬の光景を、気負いなく掬い取った作品である。

着ぶくれて心の張りを失へり 鈴木 利久(浜松)

季語「着ぶくれ」を使った俳句が数多く投句されてくるが、その多くは防寒のために重ねた衣服の重さ、動きにくさ、鏡に映る姿の鈍さ等々、詠み古された切口に終わっている句が多く、そこを脱出するには新しい見方が必要である。掲句の切り口は斬新であり、表現も含めて類句は見られないのではないか。中七以下では「心の張りを失へり」と、ストレートに心の内面へ踏み込んでいる。身体が膨らむのと反比例するように、心の張りが緩んでいくという身体と精神の対応関係は、非常に説得力がある。理知の働いた表現を用いず、自分の心の変化を正確に見つめたところに、この句の強さがある。


    その他触れたかった句     

奉納の算額仰ぐ文化の日
冬の雷未完の一句すつと消ゆ
冬晴や太極拳の円描く
紅葉且つ散る独房の鉄格子
肩越しにおかめの笑ふ熊手かな
父の忌に「愛の賛歌」を万年青の実
日の当たる出窓を歩く冬の蜂
鍋焼饂飩二人の卓にどんと置く
寒夜くる星またたけば星近し
時雨るるや小幣はりつく神の庭
底冷や足袋の小鉤の掛違ひ
梟鳴く湯舟に睡魔来りけり
冬ざるる名札ばかりの野草園
白菜を括る日差しを包み込み
寒月のあまたの星を従へて

鈴木  誠
小杉 好恵
埋田 あい
後藤 春子
熊倉 一彦
名倉 慶子
鈴木 竜川
中田 敏子
山西 悦子
岡  久子
足立 義信
大庭 南子
牧野 敏信
水出もとめ
田所 ハル


禁無断転載